5〜6歳ごろ|約6〜7分|午睡前・寝る前
日本の昔話「ねずみの嫁入り」を、5〜6歳ごろの子どもが耳で楽しめるよう再話しています。
ねずみの嫁入り
ことばメモ|嫁入り(よめいり)
昔のことばで、結婚しておよめさんになること。
むかしむかし、あるところに、ねずみの家族が暮らしていました。
お父さんねずみと、お母さんねずみ。
そして、大切に育ててきた娘のねずみです。
家族は、お米や道具をしまっておく、大きな蔵のすみで暮らしていました。
ある日、お父さんねずみとお母さんねずみは、娘を見ながら話していました。
「この子も、すっかり大きくなったねえ」
「ほんとうだねえ」
そして、お父さんねずみが言いました。
「せっかくなら、世界でいちばん強くて立派な相手に、娘のおむこさんになってもらおう」
「それはいい考えですね」
娘のねずみは、
「世界でいちばん強いって、いったい誰なのかしら」
と、不思議そうに聞いていました。
お父さんとお母さんは考えました。
世界でいちばん強いもの。
空を見上げると、まぶしい太陽が、あたりを明るく照らしています。
「そうだ。太陽さまにちがいない」
ふたりは、太陽のところへ行きました。
「太陽さま、太陽さま」
「なんだい?」
「あなたは世界中を明るく照らしています。きっと、世界でいちばん強い方なのでしょう。どうか、娘のおむこさんになってください」
すると太陽は、少し困ったように言いました。
「いやいや。わたしが世界でいちばん強いわけではないよ」
「えっ?」
お父さんねずみとお母さんねずみは驚きました。
太陽は空を見ながら言いました。
「雲がやってくると、わたしは隠されてしまう。雲のほうが、わたしより強いのさ」
すると、ちょうど白い雲が、
ふわり、ふわり。
空を流れてきました。
「なるほど。それなら雲さまだ」
お父さんとお母さんは、今度は雲のところへ行きました。
「雲さま、雲さま」
「なんでしょう?」
「太陽さまから聞きました。あなたは太陽さまを隠してしまうそうですね。それなら、あなたが世界でいちばん強い方でしょう」
ところが雲も、
「いいえ、いいえ」
と答えました。
「わたしより強いものがいますよ」
「それはいったい、誰ですか?」
「風です」
そのとき、
ひゅうううう。
風が吹いてきました。
雲は、すうっと向こうへ流されていきます。
「風が吹けば、わたしは好きなところにいられません。風のほうが、ずっと強いのです」
お父さんねずみとお母さんねずみは顔を見合わせました。
「なるほど。それなら風さまだ」
ふたりは風のところへ行きました。
「風さま、風さま」
ひゅううう。
「なんだい?」
「あなたは雲を吹き飛ばしてしまうそうですね。それなら、きっと世界でいちばん強い方でしょう」
すると風は、
「いやいや、わたしにもかなわないものがあるよ」
と言いました。
「風さまより強いものが?」
「そうさ。あそこにある、大きな壁を見てごらん」
目の前には、厚くて立派な壁が立っています。
風が、
びゅうううう。
と吹いても、壁はびくともしません。
「わたしがどんなに強く吹いても、あの壁は動かない。壁のほうが、わたしより強いのさ」
「なるほど!」
お父さんねずみとお母さんねずみは、今度こそと思いました。
ふたりは壁のところへ行きました。
「壁さま、壁さま」
「なんだね?」
「風さまから聞きました。どんなに強い風が吹いても、あなたはびくともしないそうですね」
壁は、
「まあ、そうだね」
と答えました。
「それなら、あなたこそ世界でいちばん強い方です。ぜひ、娘のおむこさんになってください」
すると壁は、しばらく黙っていました。
そして、
「いやあ、それがね」
と言いました。
「わたしにも、どうしてもかなわない相手がいるんだよ」
「あなたより強いものがいるんですか?」
お父さんねずみも、お母さんねずみもびっくりです。
壁は、自分の足もとを見ました。
そこには、小さな穴があいていました。
「ねずみだよ」
「ねずみ?」
「そうさ。わたしがどんなに厚くて丈夫でも、ねずみは少しずつ、かりかり、かりかりとかじって、穴をあけてしまう」
お父さんねずみとお母さんねずみは、その穴をじっと見ました。
「ねずみが……壁より強い?」
「そういうことになるねえ」
ふたりは、しばらく考えました。
太陽より雲が強く、
雲より風が強く、
風より壁が強い。
そして、その壁より強いのが――
ねずみ。
お父さんねずみは、
「なんだ。ずいぶん遠くまで探しに行ったけれど」
と言いました。
お母さんねずみも笑いました。
「わたしたちのすぐ近くにいたのですね」
ふたりは娘のところへ帰りました。
そして、これまでの出来事を全部話しました。
娘のねずみは、くすくす笑いました。
「太陽さまにも、雲さまにも、風さまにも、壁さまにも、かなわないものがあったのね」
「そうなんだよ」
お父さんねずみはうなずきました。
「だからねずみの中から、あなたと一緒に暮らしたいと思える相手を探すことにしたよ」
すると娘は少し考えてから、
「それなら、近くに住んでいる若いねずみさんはどうかしら」
と言いました。
その若いねずみは、いつも元気に働き、家族や仲間を大切にするねずみでした。
お父さんもお母さんも、
「それはいい」
とうなずきました。
やがて娘のねずみと若いねずみは、結婚することになりました。
蔵のすみでは、小さなお祝いが開かれました。
ごちそうを囲んで、
「おめでとう」
「おめでとう」
みんなが笑います。
その夜。
外では、やさしい風が、
さらさら。
と木の葉を揺らしていました。
雲の向こうには、静かな月が浮かんでいます。
お父さんねずみとお母さんねずみは、並んでその空を見上げました。
「世界でいちばん強い相手を探していたはずなのにねえ」
「ほんとうですねえ」
ふたりは顔を見合わせて、そっと笑いました。
そして蔵の中では、新しい家族が、静かに暮らし始めました。
