5〜6歳ごろ|約6〜10分|午睡前・寝る前
日本の昔話「おむすびころりん」を、5〜6歳ごろの子どもが耳で楽しめるよう再話しています。
むかしむかし、山の近くの小さな村に、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。
ある朝のことです。
「それじゃあ、山へ行ってくるよ」
おじいさんは、おばあさんが作ってくれたおむすびを包みに入れて、山へ出かけました。
山には高い木がたくさん生えていました。
葉っぱのすきまから、やわらかな朝の光がこぼれています。
どこかで鳥が、ちちち、と鳴きました。
おじいさんは木を切ったり、落ちている枝を集めたりして、一生懸命働きました。
やがて、お日さまが空の高いところまでのぼりました。
「そろそろ、お昼にしようかな」
おじいさんは大きな木の下に腰をおろし、包みを開きました。
中には、まあるいおむすび。
「おばあさんのおむすびは、今日もおいしそうだ」
おじいさんが一つ手に取った、そのときです。
つるん。
「あっ」
おむすびが手からすべり落ちました。
ころころ、ころころ。
「待て、待て」
おじいさんが追いかけます。
けれど、おむすびは坂道をどんどん転がって、
ころころ、ころころ、ころころ――
ぽとん。
地面にあいた、小さな穴の中へ落ちてしまいました。
「ああ、せっかくのおむすびが」
おじいさんが穴をのぞきこんでいると、
ずっと奥の方から、楽しそうな声が聞こえてきました。
「おむすびころりん、すっとんとん。
おむすびころりん、すっとんとん」
おじいさんは目を丸くしました。
「おや? 誰が歌っているんだろう」
耳をすませると、また聞こえます。
「おむすびころりん、すっとんとん」
なんだか、とても楽しそうです。
おじいさんはもう少しよく聞こうと、穴の近くまで顔を寄せました。
すると――
ずるっ。
「おっとっと!」
今度はおじいさんまで、
ころころ、ころころ、ころころ……
穴の中へ転がっていきました。
しばらくすると、
ぽすん。
おじいさんは、やわらかな草の上に着きました。
「いてて……。ここはいったい、どこだ?」
顔を上げると、そこには小さな家が並んでいました。
木の実でできた椅子。
小さな明かり。
どんぐりのようなおわん。
そして、たくさんのねずみたちが、ぺったん、ぺったんとおもちをついていました。
「わあ、おじいさんだ!」
「さっきのおむすびをくれたおじいさんだ!」
ねずみたちは、おじいさんのまわりに集まってきました。
「おいしいおむすびを、ありがとうございました」
「いやいや、あれは落としてしまっただけなんだよ」
おじいさんが笑うと、ねずみたちも笑いました。
「それでも、わたしたちはとってもうれしかったんです。どうぞ、ゆっくりしていってください」
ねずみたちは、おじいさんに小さなおもちや木の実をごちそうしてくれました。
ぺったん、ぺったん。
おもちをつく音。
ころころころ。
木の実を運ぶ音。
おじいさんは、ねずみたちと楽しい時間を過ごしました。
やがて、おじいさんが言いました。
「そろそろ、おばあさんが心配するころだ。私は家へ帰るよ」
すると、ねずみたちは小さな箱を持ってきました。
「これは、おむすびのお礼です。どうぞ持って帰ってください」
「そんな、悪いよ」
「いいんです。どうぞ、どうぞ」
おじいさんは何度もお礼を言って、箱を受け取りました。
気がつくと、おじいさんはいつのまにか山の上に戻っていました。
家へ帰ると、おばあさんが玄関まで出てきました。
「まあ、おじいさん。今日はずいぶん遅かったですね」
「それがな、とても不思議なことがあったんだよ」
二人で箱を開けてみると、中にはきれいなお宝が入っていました。
おじいさんとおばあさんはびっくり。
けれど、それよりも二人は、ねずみたちのお話をしながら笑いました。
さて、その話を聞いた隣のおじいさんは考えました。
「穴に入れば、お宝がもらえるのか。だったら、もっとたくさんもらえるかもしれないぞ」
次の日、隣のおじいさんも、おむすびを持って山へ行きました。
わざとおむすびを穴へ転がします。
ころころ、ころころ。
そして自分も穴の中へ入りました。
そこには、昨日と同じようにねずみたちがいました。
ねずみたちは隣のおじいさんも、にこにこ迎えてくれました。
けれど隣のおじいさんは、ねずみたちのごちそうよりも、お宝のことばかり気になります。
「もっとたくさん、お宝を出してくれないかな」
どうしたらたくさんもらえるだろう。
隣のおじいさんは、あたりをきょろきょろ見回しました。
そして、ふと思いつきました。
「ねずみは猫が苦手だったな。驚かせれば、お宝を置いて逃げるかもしれない」
隣のおじいさんは、急に大きな声で、
「にゃーお!」
と猫のまねをしました。
ねずみたちはびっくり。
「猫だ!」
「たいへん、たいへん!」
みんな、さっと奥へ逃げてしまいました。
明かりも消えて、穴の中はしんと静かになりました。
「あれ? お宝は?」
隣のおじいさんは暗い中を探しましたが、お宝はどこにもありません。
しばらくあちこち歩き回り、ようやく山の外へ出ることができました。
けれど、手には何もありませんでした。
そのころ、最初のおじいさんとおばあさんは、家で夕ごはんを食べていました。
窓の外では、山の向こうへ夕日がゆっくり沈んでいきます。
「ねずみたち、今ごろ何をしているでしょうね」
おばあさんが言いました。
おじいさんは、山の方を見ながら笑いました。
「きっと今ごろも、楽しくおもちをついているさ」
静かな山のどこかから、
ぺったん、ぺったん。
そんな音が聞こえてきそうでした。
そして、もしかすると今夜も、
「おむすびころりん、すっとんとん」
ねずみたちの楽しそうな歌が、そっと響いているのかもしれません。